第78回 静学・井田監督の“こだわり”
on 2003-10-16 20:34:38 (1059)
 

 何か一つ“こだわり”を持つことは、指導者として必要な要素の一つなのかもしれない。こだわりは譲ることのできない信念と言いかえてもいい。今年から装いを新たにして開催された高円宮杯全日本ユース(U−18)選手権大会。静岡学園高は雨中決戦となった13日の決勝戦で市立船橋高に0−1で敗れたが、90分間攻撃サッカーに徹して観る者に勝者以上の存在感を印象付けた。
(写真:高円宮杯準優勝に終った静岡学園高)

 試合は前半に先制点を奪った市船が静学の反撃を抑えて逃げ切ったかっこうだが、再三市船ゴールを襲った静学の攻撃が無力だったわけではない。静学は16分、18分と立て続けにチャンスを作ると、27分にはFWの横山がポストを直撃するボレーシュートを放ち、30分にはボランチの山梨が横山とのワンツーで抜け出して市船DF陣を完璧に崩して見せた。後半こそ激しく降り注ぐ雨とぬかるんだピッチに苦戦したが、前半は足元から足元に繋ぐ静学らしいパスサッカーを展開して何度もチャンスを作ったのである。

 静学の井田勝通監督といえば高校サッカー界では知らぬ者のない有名な指導者だ。30年あまりに及ぶ指導の中で一貫して南米流のテクニック重視の攻撃サッカーを志向し続け、現ヴィッセル神戸の泰年&知良の三浦兄弟をはじめ数々のJリーガーを輩出してきた。とにかく、井田監督ほど技術・テクニックへのこだわりを持った指導者はいない。

 市船戦後の会見で井田監督は「我々にとっては残念な試合だった」と語り、次のように続けた。
「しかし、雨の中でしっかりとボールを繋いで静学らしいサッカーをしてボールをキープして相手を圧倒できた。(引いた相手を崩すのは)非常に難しいが、セットプレーの精度を上げて、サイドからではなくドリブルやワンツーを使って真ん中を突破する練習をして再度チャレンジしたい」

 サイドからではなく、あくまでも中央突破にこだわる辺りがいかにも井田監督らしい。言うまでもなくサイド攻撃は効率よく得点を奪うために不可欠な攻撃、いわばセオリーである。サイドからの攻撃を受けるとディフェンダーはボールとマークする相手を同一の視野に入れることが難しくなり、その結果マークのズレが生じやすくなる。攻める側とすればそのズレをつくことができ、守る側とすればその隙をつかれて点に繋がるケースが多いというわけだ。

 ところが、井田監督はそのサイドからの攻撃よりも最もディフェンスが厚い中央突破を優先するという。セオリーはセオリーであって、絶対ではない。その技術へのこだわり、志向がなければ言える言葉ではない。何事であれ、30年間も一途にこだわりぬけばそれが一つの哲学に昇華する。そうであるからこそ、これまでも井田流の哲学を慕って多くの選手が静学の門を叩き、これからも有望選手を輩出し続けるのだろう。

 サイド攻撃を封印し、あくまでも中央突破にこだわり、技術・テクニックで相手を捻じ伏せる攻撃サッカーにこだわる。バランスや組織、戦術が重視される近代サッカーにおいて、さらに日本サッカー協会主導による指導マニュアルが浸透して型にはまった指導者、選手が多い中で、井田監督そして静岡学園の存在は一際異彩を放っている。

(中野幸信)