外から見た静学サッカーのもつ創造性と・・・   サッカー批評抜粋
高校サッカーとクラブユースの育成論議 鈴木潤
U-18のトップチーム決定戦・高円宮杯をさぐる
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静学サッカーの持つ創造性と個性溢れるプレー
関東地区と並ぶ激戦区のプリンスリーグ東海において、静岡学園は名古屋グランパスユース、清水エスパルスユース、ジュビロ磐田ユースを抑え、堂々の1位通過で高円宮杯出場権を獲得した。静岡学園はこれまでプロ選手を多数輩出。現在J1でプレーする現役Jリーガーは総勢13名。これはサンフレッチェ広島ユースと市立船橋に並ぶ数字である。さらにもうひとつサンプルを挙げるなら、柏レイソルでプレーする5人の静学出身の選手たち。増田忠俊、南雄太、永田充、谷澤達也、小林祐三。彼らは皆、柏でレギュラー格、もしくはそれと同等の存在である。
 その日行われていたU-16関東スーパーリーグ静岡学園対帝京三高の試合、そしてその試合終了後に行われたAチームの練習を見ていると、静学の選手たちがプレーの中で非常に豊富な選択肢とアイデアを持っていることが見て取れた。もちろん、それは選手各々の技術レベルの高さに呼応しているのであるが、そこには紛れもなくプレーの創造性と自由が存在し、しかも日本サッカーにありがちなボールポゼッションだけで満足することなく、バイタルエリア付近では必ず監督・井田勝通氏の「勝負!」という大声が響く。そして選手は自らの個人技、もしくは味方とのコンビネーションプレーで打開を試みる。チームメート同士は、互いに「連動」と声を掛け合い、個々のテクニックと閃きという「自由」が「連動性」という一本の見えない糸で結ばれていく。
 井田監督が言うには、サッカーは絵画などと同様「芸術」であり、正しい答えなどない。それがサッカーの奥の深さであり、世界中から愛されている理由である。良い選手ほど指導者の予測のつかない奇想天外なプレーをする。とんでもないことをやるから監督は困るのであるが、マニュアルどおりに当てはめたら良い選手は出てこない。「静学のサッカーは瞬間瞬間がアドリブ。枠がないから型にはまっていません。それはアイデアなので、周りの選手は連動性を持って有機的に動くことが大事。それは攻撃も守備も同じです。暗黙の了解というか、目に見えない糸でつながれている選手にならなければダメなんです。それを型にはめてやったら意味がありません。瞬間瞬間アドリブでやらないと。」
 アドリブという言葉で思い出されるのが、96年の高校選手権準々決勝、国見との試合で静学の坂本絋司(湘南ベルマーレ)が繰り出したバックヘッドである。FWの選手がゴールを背負い、相手ディフェンダーのタイトなマークを受けながら浮き球のパスを貰った場合、ディフェンスを背負ったまま一度トラップしてタメを作るか、そのまま味方選手に落としたポストプレーというのが常識の上ではセオリー的なプレーとなっている。だが坂本はゴールを背負ったまま、瞬時にバックヘッドを繰り出しボールの軌道を変え同点ゴールを挙げた。このプレーは瞬時の閃き、まさしくアドリブのプレーによるものであり、ポストプ レーだけを限定した指導をしていたら、絶対に生まれなかったゴールである。
好条件の揃うクラブユースのプレースタイルと今後の課題
閃きとアドリブを全面に押し出したテクニカルな静学サッカー。それを30年に渡って指導している井田監督にクラブと高校、その両者の力関係の変調について話を伺った。
 「それぞれの年や選手の質によってサッカーの内容も違ってきます。平成4年からJリーグが始まり、非常に素質のある選手がJの下部組織に行っているのは事実。それが10年続き、その下部組織がしっかりしてきて、クラブが全体的に繋ぐサッカーをしていることは良いとは感じます。ただ今回のインターハイを見ていると、高校でも若い指導者に率いられた青森山田や星陵のようなボールを大事にしているチームが出てきて、ベスト8以上に上がってきたことは新しい流れが出てきたと感じました。かつての勝つためにリスクを負わせない蹴るサッカー、トーナメントだけのサッカーからは少し変わってきた。簡単に『蹴って走って前で勝負する』のではなく、『しっかり繋いで』という指導者のサッカーが出てきたのは良いことです。」
 リズム、テクニック、インテリジェンス。静岡学園のエンブレムには、その3つの言葉が記されている。かつて「蹴るサッカー」が主流だった時代にあって、マイボールを大切にしたパスを繋ぐテクニック重視のサッカー、南米スタイルの静学サッカーはまさしく異色の存在であった。長年、そのサッカーを踏襲し、実践してきた井田監督は逆にクラブ側に提言する。
 「Jの大半のクラブは、見た目には繋ぐけど、現実的には非常にマニュアル化されたサッカー。後ろで回しているようですが、最終的には長いパスでトップに当てたりサイドへワイドに振ったり、パターン化されたサッカーが多いというのはここ3年間のプリンスリーグで、幾つかのJのチームとやって感じました。少し戦い方に「個性」が感じられません。サンフレッチェ広島ユースは凄く面白いサッカーをやりますが、これがJのクラブユースらしいという印象を受けながら一昨年の高円宮杯では試合をしました。今年はまだプリンスリーグ東海でJのクラブとは3試合しかやっていませんが、少々パターン化されている印象を受けますね。」
 井田監督はさらに付け加えた。
「多くのJのクラブはまだ歴史が浅く、指導者も我々みたいに経験豊富じゃない。高校の指導者というのは、腰を落ち着けて10年20年とやっているからポリシーがある。国見の小嶺忠敬にしても鹿児島実業の松澤隆司にしても流通経済柏の本田裕一郎にしても、それぞれのポリシーを持って自分のチームを何年も預かっています。ボールポゼッションとテクニックを大事にするとか、選手を育てているとか、それぞれの面において高校サッカーを凌駕して勝つチームじゃないとおかしい。施設の面をはじめ、すべての面で上なんですから。
勝負にとことんこだわってこそスタープレーヤーが育つ
 井田監督は現在中学生の指導も行っている。つい先日、某クラブのジュニアユースとU-15 の大会の決勝で対戦した。両チームの選手を比較した時「素質的にはどうにもならない」と、クラブ側が中学を圧倒しているというのが井田監督の見方だった。だが結果はPKで静学の勝利。しかし試合後、敗れた相手側の監督、選手は共に笑っており、その監督は「選手を育てるためにやっているから勝敗にはこだわっていない」と話していたそうだ。それに関して井田監督は「それって許されないよ」と相手チームの監督に告げた。
 「やっぱり勝って選手を育てて初めて良い指導者なんです。それが『決勝まできたから』「PKだったし良かった良かった』というのでは……。私は負けたら選手をグランドで走らせますし、選手は負けたら泣きますよ。それぐらい一所懸命やることが大事。勝負は勝負でどんなサッカーやっても勝たなくてはいけない。だから負けたら自分が指導者として失敗だったと、潔くアプローチしていかなければいけない。負けたら悔しくて泣くような選手で、勝ったら喜んで、一所懸命練習やったから優勝できたんだと。その積み重ねでよい選手が生まれていく。負けてばかりいて本当に良い選手、スタープレーヤーやエースは出てきません。『選手を育てるためにやってるから……』、そんなの言い訳です。それはJであろうと高校サッカーであろうと同じことです。」
 井田監督は「勝負にこだわらなければいけない」と言うが、そこでさらに井田監督や静学の選手たちが、勝敗と同じくらい自分たちのサッカーの質にこだわりを抱いているのも明白である。選手各々がアドリブで動き、そのアドリブの中で連動性を持たせる。それが静学のサッカーの特色だ。確かに長い歴史を誇る高校サッカーのチームにははっきりとした色がある。海外の代表クラブも、長い歴史を積み重ねてきたチームほどその独特なカラーが存在している。80年以上の歴史を持つ高校サッカーと13年目のJリーグ。冒頭に書いた広島ユースや、また先日、日本クラブユース選手権を制したヴェルディユースは読売クラブ時代からの「ラテンの香り」、いわゆる“ヴェルディらしさ“がすでに浸透しているが、個性の強い伝統校の多い高校サッカーに対して、Jの各クラブはまだその色を出し切れないでいるように思える。
 その日、静学の練習グランド、谷田グランドには、来年静学へ入学希望のU-15年代の少年たちもきており、実際に彼らのプレーを見ることができた。プロ顔負けのシザースフェイントで縦にドリブル突破したかと思えば、やわらかいワンタッチコントロールで反転。また、いとも簡単にダイレクトパスを通す。皆が皆高い技術を備え、それぞれの選手に特徴と個性が見受けられた。おそらく彼らは見よう見真似で憧れの選手のプレーを真似、そしてそんな柔軟なテクニックと閃きは「遊び」の中から身に着けられていったものだろう。このような少年たちを井田監督が3年かけて指導し、型にはめることなくそれぞれの特徴や個性を伸ばす。しかも、静学の練習中の空気には、公式ゲームさながらに貪欲に、かつアグレッシブに取り組む姿勢が浸透している。テクニックを磨くといったクラブ的な発想に、かつての日本の体育会の匂いを少し加えることで静学サッカーのベースが出来上がる。それがこの伝統校の強さなのではないだろうか。
 さらに井田監督が「勝負にこだわる」と語ったこととは対照的であるが、見ている側からすればそんな静学のサッカーは勝敗に関係なくインパクトがある。例えば今ではもう語り草になっている76年の高校選手権での浦和南や95年の鹿実との決勝戦もさることながら、92年の準々決勝ロスタイムで同点に追いつかれ、PKの末敗れた習志野戦。96年の準々決勝では、国見のパワーサッカーに対し頑なにそのテクニックで応戦。前述した坂本のバックヘッドで同点に追いつき、PKにて勝利を収めた。過去の高校選手権を振り返った時、個人的に名勝負と挙げる試合には不思議と静学のゲームが多い。

共存共栄で目指すべきは独自の育成システムの構築
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